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午後の余花





「反町」

 おそらく、湊吾の人生の中で最も多く口にしているであろう単語。
 そしてこれからも、その順位が変わることはない。

「なぁ、反町」

 ほら、また一つ増えた。
呼ばれた男は茶器を片付けていた手を止めて、感情を窺わせない声音で返事をする。それでも、他の人間に対するものとは決して同じでない柔らかさを湛えていた。

「なんでしょうか」

 気怠い午後の薄暗さの闇をも拒絶する白皙の美貌が振り返る。後ろで緩く一つに結わえた長い髪が、その動きに伴い肩からするりと滑り落ちた。
 しゃらしゃらと、涼やかな音がしそうなほどのしなやかな髪質に、そっと手を伸ばした湊吾は括っていた結い紐を解いてやる。長く伸ばされた髪が自由を得て、薄い背中に広がった。

「ちょっと、こっち来て座れよ」

 窓際に配置された白い大きなソファーを親指で指し示し、男のものにしても細い手首を掴んで引いて行った。

「片付けが残っています」
「あとでいいよ」

 先に湊吾がどさりと腰を下ろすと、反町は乏しい表情のまま自分の隣へと座ろうとするので、再び強めに手首を引く。訝しげな顔をする反町を、有無を言わさず膝の上に乗せた。
 それでなくともよく沈むソファーが、二人分の体重に従って深々と男たちを食んだ。

「……あなたは……何がなさりたいのですか」
「座れって言ったろうが」
「男の硬い尻を、膝の上に乗せて楽しいですか」
「反町だから、いい」

 ふう、と腕の中で小さく嘆息したのを感じた。溜め息一つで諦めたのか、反町はおとなしく湊吾に身体を預けてくる。
 武技に長けていても反町の身体は細い。痩躯に凭れかかられたところで、湊吾にはいかほどの負担もないのだった。
 身長はたいして差のない二人だが、手足も長く、きちんと成人男性の体型に育った湊吾の身体と比べると、反町の肉体は腕の中にすっぽりと収まるくらいに細身である。父はもう少し屈強な男に成長して欲しかったようだが、湊吾にとってこの体格差は嬉しかった。
 それでなくとも、自分は年下というハンデがあるのだから、追い越せない年齢をカバーするくらいせめて身長だけでも優位に立っておきたいのが男心というものである。
 反町の成長はすでに止まってしまっているようだったが、湊吾はまだ少しずつ背が伸び続けていた。
 いずれ、もっと身長差が生まれるに違いない。

「なぁ。……さっきのお茶さ。なんて茶葉?」
茉莉千日香モーリーチェンリーシャンです。千日紅を包むように茶葉を丸く束ねたジャスミン茶ですよ。抽出中、花が咲いていくようで綺麗でしたでしょう?」
「開花の早送り見てるみたいで、面白かった」

 他愛もない会話をしながら、湊吾は反町の肌をストイックに隠すマオカラーを開いていった。
 夕闇に沈んでいく薄暗い室内に、少しだけ隙間の空いたカーテンから差し込む朧げな光が、湊吾を魅了してやまない肢体を照らし出す。
 次第に露になる練り絹のような白い肌。それこそ、花が咲いていくような光景である。
 三つ目まで留めを外して、そこでやめた。
 つっ……と一瞬、鎖骨をなぞって、それ以上は触れない。
 左腕は反町の細腰に回して緩い拘束の形を取り、右手は無造作に投げ出されている彼のそれに重ねた。
 指の腹で綺麗に整えられた爪を撫でる。節の目立たないほっそりした指を己のそれで挟みながら滑らせて、手の甲を撫で、骨と指の谷間に浅く指先を差し入れて、それからゆっくりと上に向かって腕をなぞる。赤い袖が少し捲くれた。

「味はいかがでしたか?」

 曖昧な愛撫に、揺らぎもしない平坦な声音が、いっそ憎らしい。

「……あれは香りを楽しむもんじゃないのか?」
「抽出中の、茶葉が開く様も、でしょうね」

 すん、と黒髪に鼻を突っ込み匂いを嗅いでも、如何ほども動じない。耳でも齧ってやろうか。
 体毛など無い腕を撫でていた右手を、ふと胸元に添えて、体温が沁み込んでいくスピードで下から上へと撫で上げる。
 首筋を通って、細いラインを描く顎に触れ、人差し指が桜色の唇に到達したとき。

「……反町……」

 柔らかな感触のそれが、うっすらと開いた。
 同時に、無骨な湊吾の手の甲に、しなやかな指が添えられる。
 完全に自分に身体を任せてしまっている反町の首がほんの少しだけ仰け反り、柔らかい髪が湊吾の肩にしな垂れかかった。

「反町……」
「……、……」

 聞こえるか聞こえないかのかそけき声で名を呼ばれ、覆い隠す髪越しに湊吾は反町の耳に口づけた。
 ゆっくりと、自然に蕾を綻ばせ、花開いていく様を楽しむべきか。
 それとも、芳しき香りを立ち上らせるのを待たずに、強引に開いて花弁を散らし、手折る愉悦にひたるべきか。
 自分の心を決められず、湊吾は逃げない身体にそっと手を這わしていった。



  * * *



 緑灰色の瞳の奥に、牡の獣が潜んでいることを反町はもう知っている。
 光によって色みの変わる魅力的な瞳に見つめられるたび、その獣と目が合った。
 髪に触れる。
 指を絡める。
 抱き合って、口づける。
 反町は、湊吾が施すそれらに、一切の抵抗をしたことがなかった。
 それらの行為が、決して不本意ではないという証として。
 けれど進んで身を投げ出したりはしない。躱しながらも拒まない代わりに、誘いもしなかった。
 曖昧で露骨な湊吾の愛情表現に積極的にならないのは、反町の男としてのささやかな矜持だ。
 と、腰を捕らえていた手のひらに熱が籠もったのを感じた。
 たとえこの場で、今からどんな目に遭わされようとも、反町は湊吾を拒んだりしない。

「反町……」
「……、……」

 空気すら振るわせない声だったが、触れていたためか反町の唇が自分の名を形取ったのを感じて、ますます湊吾の大きな手に力が籠もる。
 僅か悪戯心を起こした反町は、唇の柔らかさを堪能していた指先を、ほんの少し、触れるか触れないか程度に舐めてやった。
 背中が、熱い。
 耳元に触れるくすぐったさに吐息を漏らし、反町は湊吾のもたらす溶けそうな熱に身を委ねた。


end



プラセボ】こち様への贈呈品。イラストからのイメージテキストでした。
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Date:2013/06/01
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Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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