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君の、特別な




 蝉がうるさい。
 横浜家の広大な庭にわんさとある木々は、そりゃあもう綺麗に手入れが行き届いているが、蝉の侵入までもは防げないらしい。仕方のないこととは言え、反町は頭の中にわんわんとハウリングする蝉の声に、無表情のままげんなりとしていた。
 六歳で親に捨てられ、二年間育った施設から反町を引き取ってくれたのは、この家の主人である。『反町』という名前をくれたのも彼だ。
 彼のことは嫌いではない。大きくて温かい手も、優しい声も喋り方も、大人なのにどこか無邪気な雰囲気も、嫌いじゃない。
 最初、この人が自分の主人になるのだと思っていた。父親になるわけではないと分かったときは少しがっかりしたけれど、それでも反町はあの朗らかな男の所にいられるなら何でも良いと思ったのだ。

「たーんーまーちー!」

 蝉にも負けないかまびすしい声が遠くから聞こえてくる。
 この家の、もう一人の主人。つまり、反町個人の主である湊吾だ。
 横浜家の主人は、反町に向かって「君は今日から湊吾付きだよ」と言ってきたので、とりあえずそれに従ってはいるが、はっきり言って何をすれば良いのかよく分からない。
 子守、なんだろうか。
 しかし子供に子守をさせるとは、どういう了見か。

「たんまち! どこー!」
「ここにいます、坊ちゃん」
「たんまちー!!」
「ここだってば! ここだよ、縁側ー!」

 反町より三歳年下のお坊ちゃん。
 とにかくあのちびすけは泣き虫で、自分の姿が見えなかったり一人でどこかへ行こうとすると、すぐに泣いて我侭を言い出すのだ。
 今だって、すでに涙声である。
 案の定、不思議な色の大きな瞳をうるうるさせながら、反町が座っている広い縁側に駆けてきた。
 涼しげな薄水色のセーラーカラーがひらひらと捲くれる。そういえば、初対面のときもこのデザインの服を着ていたが、お気に入りなのだろうか。

「どこ行ってたのさ! たんまちは僕のそばから離れちゃダメなんだよ!」
「……トイレに行くからついて来るなって、坊ちゃんが言ったんじゃないか」
「待っててくれると思ったんだもん……!」

 灰色がかった緑色の瞳に、またしても涙が盛り上がった。
 ああもう、と呆れながらふわふわの黒髪を撫でてやる。膝の上に置かれた空いている方の反町の手を、丸みのあるふくふくとした手がぎゅっと握ってきた。
 小さな子供特有の、あたたかくて柔らかい手の感触に、反町の口元が綻ぶ。

「ごめんなさい。もうどこへも行ったりしないよ」
「ほんと?」
「うん。ずっと一緒にいます」

 そう言うと、安心したのかきらきらした瞳をさらに輝かせて、坊ちゃんは顔中で破顔した。
 うふふーと笑いながら、縁側にごろんと寝っ転がると、湊吾は反町の長い髪を下からつんつんと引っ張ってくる。きっと、おまえも寝ろという意味なのだろうと思って、同じように隣にころんと転がると、さらに嬉しそうに笑った。

「セミ取りたいね」
「えー。やですよ。近くにいるとさらにうるさそう」
「そうかなぁ。でもほしい」
「うーん……。じゃあ、一匹だけ」
「ぶー」

 風のよく通る縁側は、夏の昼日中でも意外と爽やかで居心地が好い。
 午前中は、我侭ちびすけに振り回されっぱなしだったので疲れているし、お昼ごはんもお腹いっぱい食べたので、だんだんと反町のまぶたが下がり始める。
 だめだ。眠い。
 ふと見ると、湊吾はもうほとんど目を閉じかけていた。
 光の加減で色が変化する不思議な瞳が完全に見えなくなってしまってから、反町も睡魔に逆らわずとろとろと眠りに落ちる。
 髪は掴まれたまんまだし、湊吾の左脚は反町の上に乗っかってしまっているのでちょっと暑苦しいが、こんな風に誰かとくっついて昼寝するのも悪い気分じゃなかった。
 旦那さまもつけてくれた名前もこの家も、嫌いじゃない。
 暑い夏もうるさい蝉たちも、気にならなくなってきた。
 我侭だけど泣き虫だけど、不思議な瞳の坊ちゃんも、好きだ。
 なよやかな風になびく湊吾の柔らかい髪が、反町の腕を優しく撫でていた。


end.





プラセボ】こち様への贈呈品。イラストからのイメージテキスト。
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Date:2013/06/01
Trackback:0
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Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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