mj.エンドルフィン

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

FC2拍手のタグ
*    *    *

Information

□ 贈り物 □

束ね緒(つかねお)





 おかえりなさいませ、と口々に言う大人たちの陰に隠れるようにして、小さな人物がひゅっと消えたのが分かった。
 反町はそれを一瞬目で追って、すぐにまっすぐこちらへ向かってくる男に視線を戻す。

「おかえりなさいませ」
「ただいま、反町」

 仕立ての良いスーツは彼の身体にぴったりと合っていて、そしてとてもセンスが良い。
 彼の息子は母親似だという話だったが、にっこりと笑ってくれる表情なんかは、父親とも似ているんじゃないかと思う。反町がこの家に来たときには、彼の母はすでに故人であったがゆえ、確かめるすべはなかったが。
 いつもどおり、横浜家の主人が帰宅したときには、反町は彼に従ってともに社長室へと行く。
 座ると足が届かなくなるくらいの豪華な革張りのソファーに反町が腰掛けるも、大理石のテーブルを挟んだ向かいには、まだ主は座らなかった。何かごそごそと書類のようなものをたくさん出しているのを、ぼんやりと反町は見つめる。
 浮いた足が不安定だ。湊吾なら足先をぷらぷらさせるところだろうが、反町はそんなことはしない。

「……今回は、わりと早いお帰りでしたね」
「こちらで少し問題が起きたと連絡が入ったのでね。急遽、帰っただけだよ。……明日早朝には、また舞い戻りだ」
「そうですか……」
「お茶でも淹れさせようか?」
「いえ、けっこうです」

 そう? と首を傾げてくれる男はどことなく少年ぽい。
 無表情だった反町は、ほんの少しだけ口元を緩めて、すっと背筋を伸ばした。よく沈むソファーでは、これがなかなか難しい。

「昨日坊ちゃんは、私がタキさんに焼き菓子の作り方を習ってるときに、自分もやりたいとおっしゃって、顔から服から小麦粉だらけになっていました。クッキーを作っていたんですが、型抜きだったんですが、坊ちゃんは手でこねて巨大な……金魚、を作ったんです。焼けないよって言ったんですけど、そのまま焼いてしまって。……やっぱり生焼けで、もう一度焼いて、焦がしちゃって、また泣いていました」

 うん、と低い声がかすかに聞こえた。

「先週だったと思うんですけど、ガチャガチャっていうんですか? ……お金を入れてダイヤルを回す……あれを異常に気に入りまして。中身はどうでも良かったみたいなんですが、回すことが楽しかったみたいで、空になるまで回して出していました。おかげで、開いてないカプセルがゴロゴロしてるんです」

 特別な内容ではない。
 しかし、不在の間の、彼の知らない湊吾の日常を、反町はいつの間にかこうして話すようになっていた。
 頼まれたわけでもないし、自分自身に課しているわけでもないが、なんとなく、話したいと思うのだ。
 主がどう思っているのかは知らないけれど、相槌すら返ってこないときだってあるけれども、追い出されもしないということは、迷惑ではないと解釈する。

「……今は、佐々木さんに教えてもらった剣玉に夢中です」
「そうか」

 不器用な親子だと思う。
 本来ならば、これは湊吾が父親に話して聞かすべきものだろうに。

「……これを、湊吾に渡しておいてくれるかな」
「はい」

 大きな大きな、紙袋。
 大人が持っても、腕を上げなければ引きずってしまうくらいの。
 取り急ぎ帰国したのに、息子への土産はけっして忘れない。

 ――でも、あのこが、本当にほしいものは――

 言わない。
 きっと、このひとは解っているだろうから。





「……反町くん。どうしたの?」

 運転手や家人が集まる談話室に足を踏み入れた反町は、一人でお茶を啜る佐々木に声をかけられた。

「坊ちゃんを見かけませんでしたか」
「さっきまでここにいたんだけどねぇ。紙飛行機を追いかけてどこかへ行ってしまったよ」
「……どっちへ」
「まぁ、少し座って。お菓子でもどうかな」

 反町はわずか考えて、きっと湊吾のことだから、紙飛行機が飛ばなくなったとか先が折れたとか言って、またここに戻ってきそうな気がしたので、佐々木の言葉に甘えることにした。
 となりの椅子を引いて、ふわりと座る。
 丸みのある湯呑みにお茶が注がれ、一緒に和菓子が添えられた。
 何を話すでもない、静かな空間に、包装を剥がすさやかな音だけが響く。
 佐々木のそばは、実はわりと反町のお気に入りだった。気詰まりな雰囲気がまったくないのだ。
 さっき珍しくたくさん喋ったので、お茶と、唾液の分泌を促す甘味はありがたかった。
 もそもそと黙ってお腹に収めて、しばらく座っていたが騒々しい足音が聞こえてこないので、諦める。

「……ごちそうさまでした」
「また、いつでもおいで」

 あたたかな笑みに、反町もかすかに目を細めた。





 いた。
 おもちゃ置き場と化している子供部屋の一つに、お目当ての人物を見つけた反町は、足音も立てずにそこへ近付く。
 しゃがみこんでいる背中に声をかけた。

「坊ちゃん」
「たんまち。どこ行ってたの」
「……。それはこっちが言いたいんですけど」

 父親の帰宅の現場から逃走した坊ちゃんを探し回っていたというのに。

「これ、おみやげだって」

 大きな紙袋を縮こまっている子供の横に置いて、振り返らないのを訝しんでひょいと覗き込むと、湊吾は未開封のカプセルを開けようと奮闘していた。

「……開かないや」

 ぽい、とあっさり放ってしまい、かわりに掴んだ巨大な紙袋を逆さまにして中身をぶちまけてしまう。
 もし壊れ物でも入ってたらどうするんだと、一瞬ヒヤリとしたのだが、幸い何かが割れるような音はしなかった。
 湊吾はてらいなくバリバリと包装紙を破り、次々にプレゼントのおひろめである。

「これなんだろ。……いぬ?」
「うさぎじゃない」

 マフラーを巻いた、白と黒の動物のパペット。
 正体不明だが、間抜けた顔立ちが可愛らしかった。

「反町、これで遊ぼうよ。お前は白いほうね。色が白いもの」

 勝手に決めて、黒いうさぎだか犬だか判らないものを手に装着し、湊吾はなぜか散乱しているカプセルを投げてきた。

「わっ……あ、危ないでしょ!」
「受けとめろよ!」
「パペットはグローブじゃないですよ!?」

 あはは、と輝く笑顔を見て、反町は自分がようやく安心したことに気付いた。
 こうでなくてはいけない。
 湊吾は、反町の太陽なのだ。
 湊吾が輝かなければ、反町も光ることができない。

「……だんなさまは、明日の朝にはもう戻ってしまうんだって」
「……。そう」

 ほんの一瞬、手がとまる。

「朝早く起きて、行ってらっしゃいって言いましょうね」
「反町も一緒?」
「もちろんですよ。ずっと、なにもかも、一緒です」

 反町がそっと笑ってそう言うと、湊吾はきらきらの灰緑の瞳が線になってしまうほど、おもいっきり破顔した。




end.




プラセボ】こち様への贈呈品。
いろんな意味でレジェンドな作品w 設定を公式に認めて頂いたり、イラストに起こして頂いたりボイスにして頂いたり…!
スポンサーサイト

FC2拍手のタグ
*    *    *

Information

Date:2013/06/01
Trackback:0
Comment:0
Thema:BL小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。