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密室



 さわる。
 抱きつく。
 キスをする。
 初対面で髪を掴んでからこっち、彼は自分の為す行動すべてを甘受した。
 冗談混じりに諫められることはあっても、けして本気の拒絶をしない従順な痩身。
 彼は気付いているのだろうか。
 そうやって少しずつ、自分の施す行動に慣らされていっていたことに。
 度が過ぎたスキンシップに、何年もかけて麻痺させられていることを解っているのだろうか。

 ――自分がいだくどす黒い欲望を、おまえは一体どこまで見抜いている?







密室








「お怪我はありませんでしたか」
「ないよ。……つーか、反町こそソレ手当てしないと」
「要りません。掠り傷です」

 骨の浮く手の甲についた擦傷。
 傷自体は大したことはないのだろうが、反町の綺麗な白い手に跡が残るのは、正直気に入らない。自分が与えたものならいざ知らず、あんな雑魚チンピラにつけられた傷が後々まで残るのは許せなかった。
 この身体は、すべて自分のものなのだ。勝手に壊されるのは不愉快以外のなにものでもない。

「そう言わずに。……救急箱持ってくる」

 巨大なベッドに無理矢理腰を下ろさせて、何気ない動作で細い手首を取り、湊吾は反町の傷をぺろりと舐めた。
 薄まる赤と白のコントラスト。

「……そうですね。消毒をしないと」
「おまえ……酷いな……」

 この美しい桜色の唇が毒を吐く。
 毒舌を唇で塞げば――ほら、手刀が飛んできた。
 けれども、それだけだ。

「いったいなぁ……」
「悪さをするからです」

 悪さ、ね……と、湊吾は内心で反芻する。
 たとえ悪戯だとしても、同性同士で交わすものではないだろうに。それとも、わざと素知らぬふりをしているのだろうか。
 湊吾の想いを微塵も察せぬほど天然でもないだろうし、ましてや初心でもなかろう。
 ならば、やはりわざと躱しているのだ、この男は。
 救急箱を取り出し、処置をしようとした湊吾の手を反町が遮った。

「自分でできますから」
「でも、利き手だろ。やらせてよ。そのくらいできるし、それに……ちょっとは俺の罪悪感を拭わせてくれてもいいんじゃない?」
「……あなたのせいではないでしょう」

 淡々とした口調に、わずかばかり含まれる驚きと狼狽の色。
 傷の処置をしながら、反町のそのかすかな感情の揺らぎを悟れるのは、自分だけなのだという悦びを、湊吾は心の中で噛みしめる。

「でもうちに引き取られなかったら、こんな目に遭うこともなかったかもしんないじゃん」

 この言葉に嘘はない。
 けれど、反町に会えなかった現在の自分を想像することができないのも事実だ。
 どういう意図で父親が彼を連れ帰ってきたのかは知らないが、これに関して言えば、ちゃんと顔を見て礼を言いたかった。

「……会えなかったほうが良かったと仰いますか?」
「反町?」

 ふと漏らされた低い声に顔を上げる。

「私は……」

 長い黒髪で隠される美貌。線の細い、けれども硬質な表情は乏しくあるが、完全に無表情というわけではない。
 薄紅の唇をくっと軽く噛んで言葉を途切れさせた反町に手を伸ばし、湊吾は美しい稜線を描く頬に手を添えた。
 自分の手が大きいのか反町の顔が小さいのか、完璧に包み込んでしまえそうである。

「解ってる。ごめんな、変なこと言って。……解ってるから……」

 優しく笑って湊吾が顔を近付けると、薄く開かれる柔らかい花びら。
 心中で密かにほくそ笑みながら、それを隠して口づける。
 皮膚の薄い感触の柔らかな下唇を己のそれで挟んでから、上唇を少し舐めた。顔を傾いで深く合わせる。

「……ん……」
「たん……まち……」

 軽く啄んで離れて、焦点の合わない至近距離で視線を絡めてから、再び貪る勢いで重ねた。
 ヤクザ紛いの家にもらわれていった少年の運命を、施設の人間はどう思っただろうか。一体何に『使われる』のか、少女と見紛う子供の人生を、さぞ危惧したことだろう。
 だが彼は今こうして、自らの意志で幸福だと感じてくれているのだから、施設の連中の邪推はただの杞憂と化した。
 しかしながら、いずれ遠くない将来、この手で手折られる運命にあるのならば、あながち外れてもいなかったと言えよう。
 油断している歯列の間から舌を侵入させると、腕の中の痩身が強張ったのを感じたが、気付かなかったふりをして続ける。

「ン……ッ……」

 濡れた感触は、少しだけひんやりとして伝わってくる。湊吾のほうが体温が高いのだ。
 徐々に体重を掛けていくと抗う力を感じるが、これも無視。
 耐えきれず、反町がベッドに仰向けに倒れ込んだ。
 衝撃で軽く歯が当たったが痛くもなかったので、意に介さずに甘く激しい口づけを与えて翻弄する。

「ふっ……ンぅ……」

 角度を変えたり舌を絡めるとき、わずかにできる隙間で苦しげに呼気を漏らす身体にそろりと骨張った手を這わし、襟元を開いていく。
 びくっと痩躯を竦ませて、いよいよ余裕のなくなってきた反町が湊吾の肩を華奢な手で押し、小さな抵抗を試みた。抗う細い手首を掴んだ湊吾は、ぐいっと勢いよく横に伸ばすように広げてベッドに縫い止める。当然、その動きに伴い、反町の胸元が大きく肌蹴た。

「湊吾さまっ……」

 焦りと戸惑いと、かすかな怯え。
 照れがないのが、正直、不満。

「あはは、ごめーん」

 いつも通りの邪気のない笑顔を向けて、ぺろりと舌を出せば、反町は安堵したように柳眉を緩めた。
 こんな風に、麻痺していく。
 ほんのり朱がさした眦に唇を落としても、彼はもう緊張したりはしなかった。

「髪、下敷きになっちゃったな。ごめん、痛かった?」

 あさっての心配をして、先程の行為には何の意味もないのだという態度を取る。
 こうやって少しずつ少しずつ、微量に混ぜた麻薬のように、気付かぬ間に自分に溺れてしまえばいいのだ。
 睦んで絡み、深く交わることがいつしか当然の事実になるように、毎日、じわじわと彼の心身を侵していく。
 自分の腕の中の密室。
 捕らえたからには、もう逃がさない。




end.




プラセボ】こち様への贈呈品。
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Date:2013/06/01
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Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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