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愛されすぎるきみはすこしきらい






 都内の有名な高級ホテル。
 その中央あたりに位置する大ホールで、各界の著名人が集うパーティが催されていた。
 つまるところ、有閑な金持ちの暇つぶしである。
 もしくは、顔売り。
 横濱商会の社長は海外出張中なため、息子の湊吾が代理として参加しているので、反町は例によって付き添いでこの会場にいるのだが、はっきり言ってこういう華やかな場は苦手だった。
 湊吾は堂々とテーブルの一つに腰を落ち着けているが、反町はそっとフロアの隅へと移動する。明るい室内のせいで、姿見と化した壁一面の窓のそばへ、静かに気配を殺して佇んだ。
 離れていても、主人の姿が確実に見える位置――そして、彼からも自分の姿が確認できる位置で、朗らかに笑って挨拶を交わす湊吾の姿を眺めやる。
 ああ、もう。あれほど言ったのに。
 すでに、ジャケットを脱いでしまっている湊吾を見て、反町はわずかばかり眉根を寄せた。
 その下に着ているものは、ひどくラフな物なのだ。この場には、あまりそぐわないような物であるのに。
 どうして、あなたはいつも。

「お飲み物はいかがですか?」

 背景の一部と成り果てていた反町に気付けたのは、プロとしての洞察力からだろうか。
 突然かかった声に感心し、フロアサービスのスタッフが運んできたグラスを、反町は目礼して受け取った。
 小さな気泡を浮き上がらせながら、ライトを反射してキラキラと輝く淡い琥珀色のアルコールを、そっと口に含んで喉を潤す。
 舌の上で弾ける微発泡。
 再び主人の下へ目線を飛ばすと、彼の傍には、しなやかで蠱惑的な肢体を持った一人の女性がいた。


     ◆  ◆  ◆


「湊吾くんじゃない、久しぶり」

 親しげな声に振り返ると、肩にふわりと手が添えられた。
 手入れの行き届いた細い指に、美しく彩られたネイル。視線を上に流すと、見知った綺麗な顔がにこにこと楽しげに、そこにあった。

「久しぶりー。リカちゃん相変わらず美人ー」
「ふ、そっちも相変わらずね」

 『女』であることをしっかりと自覚しているくせに、『女』の厭味さを感じさせない気性のさっぱりしたリカを、湊吾は好ましく思っている。
 割り切りのいい人間は、傍にいて嫌じゃない。
 そんな性質のリカだからこそ、湊吾にしては珍しく、彼女とは数回身体を重ねていた。
 大抵の女は、一度寝たらそれ以降は手を出したりしない。
 お試し。あるいは、つまみ食い。
 ある意味、遊びよりも質が悪いのかもしれないと、湊吾は心の中でひっそり笑った。

「ご一緒していい?」
「もちろん。美人仲間がいるならその子たちも一緒に連れておいで」
「それは私がお断り。二人きりがいいもの」

 そう言ってさらりと笑う彼女からは、独占欲の欠片も見い出せない。
 こういうところが心地いいのだ。
 何度関係を持っても、けっして図に乗るようなことはなかった。

「嬉しいこと言うね」
「湊吾くんが来てるなら部屋取っておくんだったな」

 ここは、ホテル。
 意味が分からないほど小僧ではない。
 そこで、湊吾は窓際のほうへちらりと視線を投げた。そこにいるはずの男を、目の端で確認する。
 はたして、美しい従者はそこにいた。
 けれども彼はこちらを見ておらず、窓の外に見えているであろう都内の夜景に目を奪われている。
 いや、それとも。

「エロさも相変わらず」
「お互い様」

 一瞬流した自分の視線に気付いたのか気付かなかったのかは知らないが、軽口で返した湊吾の言葉に、リカも軽口を乗せた。
 いや、彼女の場合、気が付いてもきっと言及してきたりはしなかっただろう。そういう女性だ。
 湊吾はグラスを傾けながら、わざとらしくそっぽを向いてくれたリカの仕草に甘えて、もう一度反町を見遣る。
 自分に従順な彼は、相変わらず――
 ねぇ。
 きみはむこうを見ているの?
 それとも、背中を向けているの……


     ◆  ◆  ◆


「こんばんは。お一人ですか?」

 窓下に拡がる夜景を、ぼんやりと眺めている『ふり』をしていた反町は、またしても己にかかった声に内心驚く。
 そちらへ顔を向ければ、すらりと長身の、スーツ姿の男性が穏やかに微笑んで立っていた。
 彼は近くを通りかかったフロアスタッフを呼び止めて、反町のワイングラスを取り上げ、代わりにその手に自分と同じグラスタンブラーを持たせてくれる。

「……いえ。主人の付き添いです」
「あぁ……。横濱のお坊ちゃんか。さっきから見ていたけど、彼は人気がありますね」

 知っているのならば、一人かと訊く必要などなかろうに。
 なんとなくむっとした反町だが、けして表情には出さず、しかし視線は身体ごと今一度大きな窓へと向け直した。

「愛想が良くて容姿もああですから。こういうお席では珍しいことではございません」

 素っ気無く答えると、四角いフレームの眼鏡の向こう側で、切れ長の瞳がからかうように光る。

「ふぅん。魅力的な女性がずっと隣にいるけど……ああいうひとが好みなんでしょうか? 彼は」
「好みの女性ですか……さあそこまでは……」

 鏡となったガラス越しに、実は見ていた光景を、今度は直接見遣る。
 ちょうど、女性が湊吾に顔を目一杯近づけて、彼へ何事かを耳打ちしている最中であった。
 楽しげに笑い合う男女の姿。
 しばし硬直したように見つめたが、やはり直視できなくて、つい主人から完全に目を離してしまった反町は、持たされたグラスの中身が何なのかも考えず、一気とも言える勢いで飲み干した。

「喉が渇いていたのですか? シャンパンでも持ってこさせましょうか?」
「いえ。けっこうです」
「では、あちらで一緒に食事など……」
「いいえ。ここから離れるわけにはいきませんので」

 自分の立場を思い出せ。
 わきまえろ。
 己の心に強く言い聞かせ、しつこく誘いをかける男を反町は徹底的に無視をした。


     ◆  ◆  ◆


「ねぇ、あいつ誰? リカちゃん知ってる?」
「どのひと?」
「窓のとこ。眼鏡かけてるやつ」
「あぁ……S社の次期社長だって話だけど……。そうそう、いいこと教えてあげましょうか……」

 意味深な笑みを浮かべたリカが口元を隠すようにした手と共に顔を近づけてきたので、湊吾は耳を傾ける。
 かかる息がこそばゆい。

「彼ね、女に興味ないってうわさよ」
「えぇ? またまたぁ……」

 従者たちのほうへ顔を向けないまま、湊吾は目端でずっと気にしている。その視界の隅で、反町がようやく真っ直ぐこちらを向いたのが分かった。
 そして、横にいたS社の次期社長とやらの男が、彼の飲み物に何かの液体を混入したところも。

「気をつけてあげてね」
「あいつ強いよ? それに絶対、あんなのになびかないもん」
「うわ。妬けちゃう」

 あはは、と笑うリカにあわせて笑いながら、湊吾は反町がグラスを空けてしまったのを黙認した。


     ◆  ◆  ◆


 おかしい。
 動悸がする。
 酔ったわけではないと思うのだが――さきほど飲み干した酒は、案外強いものだったのだろうか。
 頬が熱い……。

「反町」

 見慣れた革靴が俯いていた視界に飛び込んできたと思ったら、すっかり耳馴染んだ声が頭上から降ってきた。
 ぱっと顔を上げると、そこには、強い光を宿す灰緑の瞳。

「湊吾さま……」
「具合、悪いの?」

 喉元付近を押さえていた反町の手を、何気ない仕草で大きな手が捕らえた。
 手の甲を指が滑る感触に――そこから全身へ一気に拡がった怖気に肌が粟立ち、危うく腰が砕けそうになった反町は、普段の怜悧さを失って困惑する。

「ぁ……っ……」
「反町? ……出ようか」

 捕らえた手を掴んだまま、ふと真剣な声を出した湊吾が存外強い力で反町を引率していく。
 肌に擦れる衣装の感触さえ、いとわしい。
 確実に、酩酊とは異なる自身の変調に戸惑いを隠せない反町は、黙して主人に手を引かれるに任せた。


     ◆  ◆  ◆


 反町の様子がおかしい。
 暑いわけでもなかろうに、白磁のような肌が上気して頬を薄紅に染め、時折悩ましげに、唇から深く吐息を漏らしている。
 ふと勘付いた湊吾がきょろと首を回して辺りを探ると、先ほどの眼鏡スーツの男――S社の跡取りがタイミングを計っているかのような雰囲気で、反町の様子を見つめているのを発見した。
 やはり、あの時。あの男は反町の酒に何かを混入したのだ。
 気付かれればそれまで、とでも考えている程度の悪戯だろうが、それにしたって汚い手を使う。催淫剤の類なのだろうが、もし副作用や後遺症の残るものだとしたらどうするつもりなのか。
 ちょうど、自分の周りに人が途切れたのをいいことに、言葉もなく腰を上げた湊吾は、真っ直ぐに美しい従者の傍へ向かう。
 彼は、近付いた主人にももはや気付けないほど。

「具合、悪いの?」

 潤んだ瞳。
 朱が走った頬。
 苦しそうな呼気。
 湊吾の中の、何かが切れる音が、した。

「湊吾さま……」
「スイート押さえてあるんだ。そこで休みなよ」

 一応、と思って取っておいた部屋がこんなふうに役立つとは、正直思わなかった。
 エレベーターを上がっている間にも、反町はますますの変化を遂げる。

「……ン……っ」

 こちらの心情も知らずに、だんだんと匂い立つような色香を放ってくださる従順な男。
 握る手に力を込めたら、紅を刷いたような唇からなんとも艶かしい声が漏れて、湊吾は身体の奥のほうが疼くのを感じた。
 自分の中の、質の悪い部分が目を醒ます。

「入って……」

 広い室内の奥の、巨大なベッドに反町を座らせ、湊吾はキッチンスペースに行って水を汲んでくる。
 手渡すと、震える手でグラスを受け取った。
 しかし一向に飲む気配のない男に手を伸ばした湊吾は、いつもきっちりと留めてある襟元に指をかけ、滅多なことでは露にならない肌を暴くように、留めを一つ二つと外していく。
 その間にも、抵抗すらしないものの、反町は耐えるような表情で顔を背けっぱなしであった。
 唇を噛んだまま、何も嘆願してこない反町に少しばかり残虐な気分になった湊吾は、その場を離れて再びキッチンへ向かう。
 冷蔵庫を開け、フルーツの盛られた器を取ってきて、ベッドの見えるソファーに腰掛け、ゆっくりとした動作で熟した果実を口に運んだ。じっと、反町から視線を外さずに。

「……っ、ぅ……」

 腰を引いて背を丸め、反町がベッドに手をついた。
 徐々に余裕のなくなってきた従者を視ながら、湊吾はわざと、濡れた音を立てて果実に齧りつき飲み下していく。
 ちら、と。
 上目遣いに、ようやくこちらを見た反町と視線を絡め、折りしも指を伝った果汁を、湊吾は意味深に吸ってやった。
 ちゅうっ……と、音を奏でて指を吸い。
 含みを込めた流し目で。
 淫靡な気配を隠しもせずに、落ちるか落ちないかのギリギリのラインで誘惑する。

「……ッ……」

 反町が、震える喉で息を飲んだのが分かった。
 しなやかな黒髪を割って覗く耳が、その耳朶が赤く染まっている。

「ねぇ。反町……」
「は……い……」
「どうしてほしい?」

 答えられないのは分かっていて訊くのだから、我ながら質が悪い。

「ねぇ?」
「私なら……一人で大丈夫です……。どうぞ、下のホールへお戻りください。みなさんが、心配なさいます……から……」

 やはりこの程度では落ちてこない従者に、したりと湊吾は唇の端を上げる。

「ふぅん。……じゃ、俺戻るね?」
「あっ……」

 思わず、だろう。
 うっかり縋るような表情で反応を返してしまったことに気付いた反町は、またも俯いて唇を噛んだ。
 腰を引いていても、ゆったりとした衣装であっても、兆していることなど明確である。
 そして、それは湊吾とて例外でなく。

「……なんてね。さすがに、戻れないよ俺だって。……これ、おさめないことには……ねぇ」
「湊、吾…さま……」
「手伝ってあげるから、協力してね?」

 真っ赤に熟した果実を一つ、湊吾は反町の唇に押し付けて潰して――その甘露を、白い肌に滴らせて、散らした。


end?




プラセボ】こち様への贈呈品。
いくつものラフ画を無理矢理に繋いでくっつけて一本に纏めたもの。
リカちゃんと湊吾の会話の一部分はこちさん公式です。
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Date:2013/06/01
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Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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