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頑張れ新丸子裕司




 通い慣れた道程。通い慣れた洒落た美容院の扉を開けると、明る過ぎる声が湊吾と反町を迎えてくれる。
 飛んでくるハートまでもが見えそうなその声の持ち主は、しなやかな体躯をくねらせながら傍へと駆け寄ってきた。

「あらあっ! いらっしゃ~い。反ちゃぁんっ、今日こそゆるふわパー……」
「お断りいたします」

 一刀両断。
 カリスマ美容師は、淡いピンクのグロスの塗られた唇をぷうっと尖らせた。
 どうしても反町の髪をくるんくるんにしたいらしい。

「もう諦めなって~」

 湊吾がけらけらと笑いながら宥めると、きっと睨まれた。

「湊ちゃんは黙っててっ」
「……まあ、ちょっと見たい気もするけどね。ゆるふわ反町」

 ふと真面目な顔つきでそう言った湊吾を見て、目を丸くした美容師――代官山は、急に目を輝かし、

「やだっ、じゃあ、湊ちゃんがちょちょいっと命令してくれればいいんじゃないの?」
「あ、その手があったか。ね、反町。髪をゆるふ」
「お黙りなさい」

 うきうきとした湊吾の言葉を、冷徹な声がずばりと断ち切る。
 というか、主人に向かってその言葉遣いはどうかと思う。

「……代官山さん。今日は毛先を整えていただきたいのですが」
「うう~ん、残念っ」

 こぶしを胸の前でぎゅっと握り、小さく身悶えしてみせる代官山の仕草はキュートである。しかしながら、その声ははっきり言って少し高めであるが、れっきとした男性のものだ。
 そう、湊吾と反町の幼馴染の『彼』は、いわゆるオカマ、そのものだった。
 白く綺麗な店の一番奥の席に案内すると、そのあとをもっさりとした黒い塊がついてくる。代官山の愛猫、グラニー・スミス・ジュニアだ。
 気高い彼女はなぜだか反町と仲がいいので、彼らが来店すると必ず姿を現し、帰るまで傍にいるのだった。
 シャキシャキとした小気味良い音が響く中、他愛もない会話を交わすのは湊吾と代官山だ。表情欠落佳人は黙したまま、二人のやり取りに耳を傾けているだけである。
 シャンプーも済み、ブローも終わりに近付いた頃、代官山は指の間をさらさら逃げる反町の髪を、ふうわりと高い位置で結う真似をした。

「あたし、妹の髪をこうやって結わってあげるのが夢だったのよね~」

 夢見る乙女のように、どこかうっとりした表情を浮かべて鏡を見るオカマの後ろで湊吾が、

「いや、妹じゃないし」

 と、ツッコミを入れるが、代官山はさらりと流し、身を屈めて反町の横に自分の顔を近づけて並ぶ。

「できの悪い弟は黙ってなさい」
「そうだね、“お兄ちゃん”」
「…………。美人姉妹って感じでしょ~。うふふ」
「いやだから、二人とも男だし」

 傍に座って逐一ツッコむ湊吾に、笑顔のまま、ぷちんとオカマが切れた。

「……行け! ジュニちゃん!」

 飼い主の号令と共に、黒い塊が体格を無視した跳躍を見せる。体重を感じさせない動きで襲撃を受けた湊吾は、椅子から転げ落ちるようにして危ういところで攻撃をかわした。

「ちょっ……な、なんでこんな時だけ言うこと聞くんだよ!?」
「いけいけ~」
「ばか! ばかねこ! ぎゃあああ反町助けてえぇ!」
「まぁ、いずれ」
「こらあ!」

 なおも鈍重な体当たりで飛び掛ってくる猫から逃げ惑う湊吾が、身を翻した瞬間、折悪しく鋏を持っていた代官山の身体にぶつかってしまった。

「きゃっ」
「代官山さん!」

 鏡で一部始終を見ていた反町が、思わず腰を上げる。
 らしくない秘書の慌てた声に振り返った湊吾が見たものは――

「う……わわっ。血! 血ィ出てんじゃんか!」
「あなたがぶつかったからです、湊吾さま。代官山さん、これを……」

 襟元からタオルを引き抜いた反町は、掌の傷口をそれで強く押さえた。

「病院へ……」
「そ、そうね。商売道具が駄目になっちゃ困るわ。……車出してくれる? 湊ちゃん。それでチャラよ」

 傍らでオロオロしたまま、泣きそうな顔で立ちんぼうしている湊吾に、代官山はぱちんとウィンクした。


     ◆   ◆   ◆


 うっとりと見惚れるように自分の話を聞く妙齢の女性患者に、彼はにっこり微笑んで言う。

「どうぞ、お大事に」
「はい……ありがとうございました……」

 きちんと手入れされた指で、眼鏡を正すことも忘れない。
 新丸子はカルテを看護士に渡し、パソコンへ向かいキーボードを軽やかに叩いた。
 完璧だ。
 高校時代は生徒会長。一流大学に入学し、ちゃんと卒業。そして、現在は父の病院で若きイケメン外科医である。
 完璧、だ。
 ふっと口許に笑みを浮かべた新丸子は、受け取った新しいカルテも見ずに、看護士に次の患者を入れるよう促した。

「次の方どうぞー」

 そこへ入ってきたのは、見覚えのある麗しき姿。
 表情こそ乏しいが、それがまた魅力の一つである整った目鼻立ち。白い肌、黒目がちな瞳に、桜色に柔らかそうな唇は、涼やかで落ち着いた声を出す。優雅さを感じさせる仕草とともに揺れる長い黒髪。
 少し大人びた顔立ちになったとはいえ、高校の後輩だった反町は、新丸子の記憶にある姿とほとんど変わることがなく美しかった。

「た、反町くん……!?」

 思わず椅子から腰が浮く。

「…………………………………………あ、会長」
「ず、ずいぶん間が長くなかったかい!?」
「そうですか?」
「それにさっきちょっと名札見たよね!?」
「古い記憶を手繰り寄せて手繰り寄せて隅の隅の隅っこのほうにあった顔だったもので……それはさておき」
「さておかれたあぁぁぁ!!」

 顔を両手で覆い、背を仰け反らせたところで、

「先生? どうなさいました?」

 入ってきた看護士の姿を見てはっとした新丸子は、取り乱したことを恥じるように咳払いをし、格好をつけて前髪をかき上げた。
 ゆったりとした仕草で反町に手を差し伸べる。
 いけない、いけない。
 僕は完璧な存在だ。

「それより、どうかしたのかい? 早く診せてみなさいほら早く。その綺麗な肌のどこに怪我を?」

 それでも早口になって詰め寄ってしまう新丸子に、それでも冷静な表情のまま、反町が肩越しに後ろを振り返った。

「いえ、患者は私ではなく……」
「私です~」

 視線の先にいたのは、袖から胸から真っ赤に血に染まった人物のスプラッタな姿。
 ……はっきり言おう。
 新丸子は、血が嫌いだった。
 ふうっと気が遠くなった新丸子は、額に手の甲を当てて、後頭部を引っ張られたように倒れそうになる。
 その身体を、咄嗟に支えられた。

「危ない!」

 がっしりした腕と身体に受けとめられたのを感じる。

(反町くん……キミはやっぱり優しい男だったんだね……。それにしても意外と逞しい手と腕だな……あぁ、胸板もしっかりして……そうか着痩せするタイプなのか……)

 頬を染め、うっとりとしばらく堪能してから、ゆっくり新丸子は背後の人物を振り返り見上げた。

「どうもありがとう、たんまあぁぁぁっ!? な、なんでお前がっ!!」
「あ? センセ誰? 俺のこと知ってんの?」

 間近にあったのは、あの横浜湊吾の憎たらしい灰緑の瞳。むかつく口調と表情。変わらぬふてぶてしさ。
 自分が誰の腕の中にいたのかを自覚した新丸子は、電流に打たれたかのように湊吾の手を振り払った。

「放したまえ!」
「助けてもらっといて随分な言い方だな。……ンなことよりさぁ、さっさと怪我人診てよ」

 くいっと顎で命令され、カッチーンときたが、ここは病院である。己の職業を思い出した新丸子はきりっとした表情を作り、気をしっかり持って、先程の血まみれの人物に向き直った。よく見なかったが、喋り方からして女性だろう。特に興味も無かったが、とりあえず格好つけておく新丸子だった。

「……さ。見せてみてください」

 あ、でも反町君がやきもちを焼いてしまったらどうしようかな、などと心の中でにやけつつ、丸椅子に座った患者を真っ直ぐ見た。

「ごめんなさ~い」

 柔らかな物腰、丁寧な口調の人物なのかと思ったのだが。

「お、オカマか!?」
「失礼ね! 乙女よ!!」

 と、地雷を踏んだ新丸子に、代官山が掴みかかる。

「ぎゃああああ! 首がめきって! 今めきってえぇ!? 」
「それはさておき。先生、早く治療をお願いします」
「またさておかれたああぁ! 反町くぅぅんん!?」

 騒々しい診察室に、待合室が騒然となっていたことは、知る由もない四人だった。


     ◆   ◆   ◆


「では、これで失礼致します」
「待合室で待ってるかんねー」

 やっと落ち着きを取り戻した新丸子に手当てを受けている代官山へと、会釈し手を振りながら、診察室から反町と湊吾が出て行こうとする。
 それに、代官山が血まみれの投げキッスを送った。

「ありがと、二人とも」
「た、反町くん! 行ってしまうのかい!?」

 代官山の手に麻酔が効いてきたかどうかを確かめていた新丸子は、我知らずその手をぎゅうと握りしめ、チワワのように目を潤ませて愛しい後輩を見やった。
 乙女が目を輝かせる。

「やん。可愛い」
「私は怪我してませんから」

 同情を誘う表情にも心動かされることもなく、反町は湊吾と寄り添って出て行ってしまった。
 勝手に閉まるスライドドアが無情だ。

「……センセ。反ちゃん狙い?」

 ちくちくと掌を縫われながら、代官山が上目遣いに見つめてくる。意味深に微笑まれているのが厭な新丸子は、ふと眉を顰めた。

「下品な言葉はやめてくれたまえ」
「残念だけど、諦めたほうがいいわよぉ。あの二人、カミソリの刃一枚入らないくらいにぴったりだもの~」
「な、なにがぴったりなんだ……!?」
「……ぅふふふふふふふ」

 目を弓形にして、口角をこれでもかと上げて、オカマが薄気味悪い笑いを漏らした。

(あんな奴……反町くんには相応しくない! 逆らえない立場なのを良いことに彼を好き勝手して……っ!)

 ぶつぶつと口に出していることなど全く自覚がない新丸子は、代官山の顔が噴飯寸前であることに気がつかなかった。

「ねぇ、センセ。湊ちゃんのことキライなの?」
「当たり前だ!」
「どうしてー? いいこよぉ?」
「あっ……あんな! あんな奴っ!」

 怒りに頬を上気させているのに、傷口を縫う技は見事なものだった。これなら、きっとよく見ないと傷跡などと判らないくらいには治るだろう。
 最後に糸を括って鋏で切り、新丸子は代官山の密かな感心など知らず、その刃物をデスクに叩きつけるようにして置いた。

「能天気で! 自分勝手で! チャラチャラしてて! 人でなしで! 女子に好かれて! たっ、たた反町くんまで独り占めして!!」

 血走った目で立ち上がった新丸子は、溜まりに溜まっていたと思われる湊吾への不平不満を、唾を飛ばしながら叫んだ。

「あんな腹立つ奴、他に知らないっ!!」

 一瞬、新丸子の迫力に気圧された代官山だったが、やがて、やれやれとでも言うふうに、両の掌を天に向けて肩を竦めた。
 可哀相な失恋男には、慰めてあげる相手が必要よね……などと、考えながら。


end.




プラセボ】こち様への贈呈品。お誕生日お祝いのギャグテキストでした。
挿絵描いて貰ったんですが、あまりの秀逸さにフイタwww
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Date:2013/06/01
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Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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