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休日の香り




 からりと晴れた休日の朝である。
 サービス業ならば土日などという曜日に関係なく忙しく勤めるのであろうが、横濱商会は多くの企業と同じく週末に休みを設けてあった。
 その横濱商会社長の一人息子かつ一社員である湊吾は、射し込む陽光をものともせず寝こけ、再三起床を促す従者の声も無視して、やっと起きてきたのは昼近く。「休みなんだから、いいでしょ」と、悪怯れない笑顔の持ち主にその従者――反町は、嘆息するしかなかった。まったく、これではサービス業の人間と変わりがない。
 休みなのは自分も同じだと言いたくなるのを、反町はぐっと飲み込んだのだった。

 幼馴染みで、主。
 奇妙な関係性だと思わなくもないが、自分たちにはこれがもう当たり前で普通の事となってしまっていた。その主人の我儘に振り回されることすらも。
 ブランチの後片付けをする反町は、湊吾の秘書という肩書きを戴いているが、実際には彼のボディガードである。しかし、幼い頃の『遊び相手』という印象がどうしても抜けず、湊吾は反町をいいように連れ回すし、反町も湊吾の無邪気さに付き合うのが嫌いではなかった。
 ――なので。

「どーん!」
「わぁ!」

 食器が乗ったトレイを運んでいる最中、背後から抱きつくように突撃されても、ひやりとするだけで怒りは沸いてこない。
 またか、という諦念の思いもあるにはあるが。

「湊吾さま! 危ないでしょ!」
「さすが反町。絶対落とさないと思ってたよ」

 振り返って叱っても、意に介さぬその傲慢さ。食器が偏ってしまったトレイをワゴンに置いた反町は、腰に巻きついた腕を外して湊吾に向き合った。
 どうしたの? 遊んでくれるの? とでも言いたげな犬のようなきらきらした瞳に、反町はこれ見よがしに溜め息を吐く。

「まったく……どうしてこんな悪戯ばかりするんですか」
「だって、こうしてる間だけは、反町は俺だけを見ててくれるでしょ」

 一瞬、きょとんとした後、即答された。
 困らせていれば、反町が自分だけを見つめてくれるのだと、言う。
 まるで気軽に口にするが、強い光を放つ灰緑の瞳は真剣だった。
 真摯な光に、呑まれそうになる。

「……見て、いますよ。いつも」
「嘘だね」
「嘘じゃありません」

 いつだって、見ている。
 嘘ではない。
 初めて髪を掴まれたあの日から、彼に対する感情に変化が生じるようになってからも、ずっとずっと見ている。
 寂しい子供が悪ガキになって、ガキ大将になって、無邪気な少年と危険な大人の入り交じる今に至るまで、鮮明に詳細に思い出せるほど湊吾を見つめてきた。
 自分を片時も離さなかった男は、しかし反町の言葉を信じない。

「見ています。あなただけを、傍でいつも……」
「嘘だよ。反町はいつだって、親父と俺とを見てる。俺だけじゃない」
「……、湊吾さま……」
「だから、俺はやめないよ。反町が俺だけを見るようになるまで、悪戯やめないから」

 拗ねたような表情で僅か鼻の頭に皺を寄せ、湊吾は反町の手首を掴んで強く引き寄せた。
 抱きしめられるぬくもりに、抗えない。
 すっかり広くなったこの背に、腕を回すことができたなら、どんなにいいか。
 誰よりも傍にいながら、遠ざけねばならない。
 強くかたく抱きしめられたまま、反町は切なげに眉を寄せる。抱き返せない主人の香りを、ゆっくりと、肺いっぱいに吸い込むしかできなかった。


end.




プラセボ】こち様への贈呈品。
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Date:2013/06/01
Trackback:0
Comment:0
Thema:BL小説
Janre:小説・文学

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