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泡沫の音色 序幕



 時は大江戸、世は太平。空はまさしく晴天なり。
 賑々しきは城下町。さて、今日も今日とて響き渡るは――罵声にて候。

「待ちやがれぃ、この小童!」
「やなこった! 悔しかったら追いついてみやがれ、禿げオヤジ!」
「はっ……!? まだ禿げてねえぇぇ!」

 禿頭の父親を持つロッシに、毛髪に関する揶揄は禁句である。無論、目の前を脱兎の如く駆け行くスリ小僧がそんなことを知っているはずもなく、単なる罵り言葉であったことは明白だが、十手持ちの男を本気にさせたことは間違いなかった。
 しかしさりとて、なんというか――大人げない。

「言ってはならんことをー! も、絶対ぇ許さねぇ! オラ財布返しやがれ、クソガキがぁ!」
「腹減ってンだ!」
「みんなそうじゃあぁぁ!」

 世知辛い時代である。
 腹一杯食える奴など…………まぁ、いるには、いるか。
 ふと、ロッシの脳裏に、突き抜けた笑顔を見せる灰緑の瞳を持った男の顔がよぎる。

『メシがない? じゃあ大福を食えばいいじゃん♪』

 あぁ言いそう。すごく、言いそう。
 痛む頭を抱えたくなったその時、一陣の風がロッシの横を通り過ぎた……かに、思えた。

「こらぁ! 駄目でしょキミ!」
「いててててっ」

 ロッシをあっさりと追い抜き、スリの少年の着物を捕まえているのは。

「……ジェダ」

 朗らかで快活。真っ直ぐな性格で、優しくて働き者で器量よしとくれば、まさしく彼女は、小町と呼ぶに相応しい。
 ただし、見ての通り、その前に『俊足』がもれなく付くのだが。
 よくまぁ、御髪おぐしも裾も乱さずに、あれだけの速度で走れるものである。

「ジェダ。お手柄だぞ。そいつの手に握られてる赤の巾着は、おみしさんのモンだ」
「えぇ。知っています」
「会ったのか。怪我してなかったか?」
「お召し物が少し、汚れただけだったようです」

 足が自慢だったスリ小僧は、あっさりと追いつかれたことにいたく矜持を傷つけられたらしく、逃げても無駄と踏んだのかおとなしく――拗ねきった表情ではあったが――廻り方の男に肩を捕まれたままであった。

「ほら、これを代わりにあげるから……」
「う」

 少年から手を離したジェダがたもとから取り出したのは、手のひらほどもある巨大な饅頭。
 竹皮でくるまれた菓子にごくりと唾を飲み込んだ少年は、ちらりと上目遣いでジェダの顔を窺い、彼女がにっこりと微笑んだのを見て、茹でたように真っ赤になる。

「……ち。しょうがねぇな……」

 目線を逸らし、とんがらせた口でぼそぼそと精一杯悪態をついて、饅頭を引ったくるように掴んでから、赤の巾着をジェダに押し付けた。そして、人混みの中へと逃げていった。

「あーらら。逃げられちゃった」
「……あっ。す、すみません! もしかして邪魔しました?」
「いや、いいよ。逃がす気なかったら、もっとしっかり掴んでるって」

 ひらひらと手を振って笑ってやると、安堵したように青い瞳が和らいだ。
 年の瀬も迫り来るこの寒空の下、誰もが必死に生きている。
 スリは認められる行為ではないが、いくらなんでも飢えて死ぬこともないだろう。ジェダはきっと、あの少年に幼い弟妹がいることを知っているはずだ。ロッシも、その意図を汲んだ。

「ところで……お前さんはいつも袂に饅頭を入れてんのか?」
「そんなことは……。八つ(午後三時)にでも食べようかと思って」

 一人でか。
 という言葉を、ロッシは飲み込んだ。
 女は甘いものが好きな生き物だ。饅頭だろうが大福だろうが、どんな大きさだろうが、入るときは入る。そういう生き物だ。うん。

「……さて、と。もう一回りしてくるわ。それその巾着、頼んでもいいか?」

 少しばかり大きめの十手を肩にぽんと乗せ、同心は高く抜けるような空と同じ色をした目のジェダを見て、口の端を上げた。
 陽光を反射させて、きらめく黄金こがね色の巻毛は綺麗に結われているが、ゆうわりと波打つ前髪は額を隠している。それを揺らしてこくんと頷いた彼女は、お勤めご苦労様です、と笑ってくれた。



第一幕へ



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Date:2013/03/26
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Thema:二次創作(BL)
Janre:小説・文学

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